「金流先生」開発小史

顧問先との話の中、資金の大切さを痛感

私は、昭和50年に独立して会計事務所を始めました。

自分は口下手だし、人付き合いも良い方ではありません。そのため資格を有効に生かす道として、記帳代行と申告業務のほか、自分の存在性をアピールするために多くのことをやってきました。一般の事業承継・経営計画の策定等のコンサル業務、裁判所からの株価算定業務など、かなり会計人として難しいといわれる分野もこなしてきました。いま考えてみると、それらはかなり属人性の強い業務であったように思います。

その他に、資金情報システムの確立を自分のテーマとしていました。それを目指すきっかけは、いろいろな会社の方たちとお話しをさせて頂く中にありました。顧問先の社長さん方が皆さん、利益よりもむしろ資金のことを、ずっと切実に心配されていたのです。それも過去の情報ではなく、将来の資金情報のことでした。数か月先の資金繰り予定に、特に大きな関心を抱いていました。

私はそのころから、資金の大切さを痛感し、そして顧問先の社長たちの心配ごとを何とか解決できないかと腐心するようになりました。

私は、過去の資金情報は必要ないと思っていたわけではありません。しかし、そのための研究が必要なら、そのうちに誰か他の人がやるだろう、少なくとも私がやることではないと思っていました。私は過去ではなく、将来の資金情報のことで経営の役に立てないかと考えるようになっていったのです。寝ても覚めても、そのアイデアを実現する方法を考えるようになりました。

将来の資金情報を得るためのシステム事業が頓挫

そんな思いで過ごしていた20年ほど前に、あることが契機となり、まさにそのものずばりのソフトを開発することになったのです。とはいえ、もちろん一人でできるわけはありません。ある大手コンピュータメーカーが提携を申し出てくれたのです。

これで私の夢が一気に叶う! と、飛び上がって喜んだものです。

そのとき、その大手コンピューターメーカーは、ちょうど世界に通用する高性能のデータベースを完成して、世の中に送り出そうとしているところでした。そして、そのデータベースを利用する会計用アプリケーションの一つとして、私の資金予定情報システムを搭載する計画でした。

それからは、その会社と組んで、数か月先の予定が分かる資金予定情報システムの構築に取り掛かりました。そのデータベースを利用して刻々変化する資金情報をリアルタイムで得る、というのが私の提案したシステムでした。そして2年ほどの試行錯誤の末、やっと期待のシステムができ上がったのです。

しかし、ようやく発売にこぎつけた資金予定情報システムは全く売れませんでした。今考えると、当時としては、あまりにも規模の大きなシステムだったと思います。

そのうち、頼みにしていた相手はデータベースの権利を私に無制限に与えることを条件に、提携した事業からすっかり撤退してしまいました。残念ながら、そのデータベースを維持して生かすだけの力は私にはなく、私が夢見た将来の資金情報が得られる資金予定情報システムの事業は、あえなく頓挫してしまいました。しかしそのおかげで、私にとって大変貴重な経験をさせてもらったのも事実です。

世間ではキャッシュフロー計算書が話題になっていたが……

私が将来の資金情報に没頭している間に、世間では違うことが起きていました。気が付いてみると、世の中ではキャッシュフロー計算書が話題になっていたのです。

キャッシュフロー計算書は、私が軽視した「過去の情報」です。しかも、話題になっていたのは、素人には理解できない、間接法のキャッシュフロー計算書でした。間接法のキャッシュフロー計算書は比較的作りやすく、またないよりはましですから、間接法が流行るのも一理あります。しかし経営者のほとんどは会計の専門家ではありませんから、間接法を見せられても意味が分かりません。

私は過去の情報は役に立たないと思っているわけではありません。しかし、間接法では無理があります。そこで私は、直接法のキャッシュフロー計算書を作らなくてはと考えたのですが、そこで壁に突き当たりました。従来の方法ですと、直接法は非常に作りにくいのです。

実際にやってみるとよく分かりますが、直接法のキャッシュフロー計算書を教科書通りに作るには全体構造を知る必要があります。しかしそれには非常に手間がかかります。しかし私は、どうしても直接法を作らなければと思いました。

この壁を乗り越えるのに、また2年を要したのです。

エクセルのマクロ版からプログラム版の開発へ

しかし、苦労した甲斐あって、直接法のキャッシュフロー計算書をどうすれば作れるのかについて、次第に分かってきました。そこで、エクセルでマクロを組み、私が考案した直接法のキャッシュフロー計算書を作って、顧問先へ持って行くことにしました。

顧問先の社長は、大抵の場合、月次の貸借対照表や損益計算書には、ほとんど興味を持ってくれません。しかし、キャッシュフロー計算書は違いました。私の説明を聞きながら、キャッシュフロー計算書をじっと見ています。見ている時間が長いのです。そして、「これなら、よく分かりますよ。いいじゃないですか」と褒めてくれたのです。

実はその社長には以前、間接法のキャッシュフロー計算書を見せたことがありました。そのとき社長は、まるで狐につままれたような顔をしていました。そんな社長がほめてくれたのですから、これは嬉しかったですね。

次はこのエクセル版を基に改良を加えて、プログラム版のキャッシュフロー計算書を開発しました。それを、会計事務所相手にFAXでダイレクトメールを流し、半年ほどで約100本販売しました。そして、これから更に、会計事務所に向けて普及していこう、と思っていた矢先に、体を壊してしまいました。

通常業務のほかに、資金予定情報を得るシステムや、直接法によるキャッシュフロー計算書作成ソフトを実現するための夢を追い求めて、働きすぎた咎めだと思いました。

それからは、今までのように無理はしないことにしました。そこで会計事務所の方は後継者を探し、引継いでもらいました。その引継ぎに3年を要しました。関与先には心苦しかったのですが、後継者に人を得て関与先に喜んでもらいホッとしています。

その後の私は、直接法によるキャッシュフロー計算書作成ソフト「金流先生」の、開発・販売に本格的に注力することにしたのです。